2012年1月29日日曜日

『童年往事』  藤家具に込められた望郷の思い



親戚のおばぁが亡くなった。

我が家を訪ねるたびに籐椅子に深く腰掛け、幼い僕の話をウンウンとうなずきながらいつまでも聞いてくれる…そんな優しい人だった。


けれど、ここ10年ばかりは仕事やら何やらと忙しさにかまけているうちに、この日を迎えてしまった。数え97歳の大往生とはいえ、その最後に立ち会えなかった自分の薄情さに反省するばかり。

おばぁのことを考えるうち、ある映画を思い出した。『童年往事』(1985年、候孝賢監督)という作品である。
舞台は1950~60年代の台湾。主人公の少年は内戦の影響で中国大陸から移住。両親と祖母は故郷へ帰れると信じて疑わないが、それも叶わず相次いで病死。残された少年は大陸のことを覚えておらず、「台湾人」として成長していく。

過去に思いを馳せる大人たちと、今を生きる若者。それぞれの立場が特に表れているのが、主人公の家にある藤家具。
これは父がいずれ故郷に帰る際、持ち運びやすいようにと買い揃えたもの。だが、その思いは果たせない。持ち主亡き後もスクリーンに映し出される籐家具が、望郷の残滓のように見えて胸が締め付けられる。

本作の救いは全編に流れる男性のナレーションだ。

成長した少年が回想しているらしく、当時は気づかなかった両親と祖母の心情をくみ取りなが淡々と語る。逝ってしまった人の思いに、残された者は記憶を反芻することで近づくことができるのかもしれない。

我が家の籐椅子はもう無いけれど、幼い頃に交わしたおばぁとのひとときは、これからも僕の胸の奥にずっと残り続けるはずだ。

※本記事とイラストは、沖縄タイムス2011年5月8日掲載の連載コーナー「シネマのアレ」記事を加筆修正したものです。

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