2009年7月16日木曜日

“可哀想な沖縄”が奏でる少女漫画チックなメロドラマ~『川は流れる』



桜坂劇場で行われている「沖縄娯楽映画」特集にて『川は流れる』(`62)を鑑賞する。沖縄出身歌手・仲宗根美樹の同名ヒット曲に着想を得た作品なのだが、これがもう、びっくりするぐらいのメロメロドラマだった。 




戦争の爪痕が生々しく残る沖縄に出張した自動車会社の重役・光谷(大坂志郎)は、親切なバスガイド亜紀(桑野みゆき)に観光名所を案内される。亜紀は父を知
らず、母とも死に別れ天涯孤独の身となったが、歌手になることを夢見つつ、けなげに生きていた。実は亜紀の父は前述の光谷であった。彼はその事実を知る
と、亜紀の夢を叶えさせようと東京で歌のレッスンを受けさせることにした…。


キーワードは“可哀想”

ここでフィーチャーされている沖縄のキーワードはずばり“可哀想”、コレに尽きる。それを象徴しているのが主人公の亜紀だ。自分の不幸な境遇に腐る
ことなく、清く正しく生きる女性であり、二言目には「自立しなきゃ」と己を追い込む可憐な女性。父を知らなかったのも戦争のためだったし、沖縄戦中は母娘
二人で亀甲墓に隠れていたというエピソードも出てくる。まさに戦後沖縄を体現した“可哀想な女性”なのだ。



貧乏な沖縄と金持ち東京

そんな亜紀の境遇と対照的なのが東京における父、光谷家の金持ちぶりである。高台に建つ洋風住宅に住み、突然のお客様にもケーキやコーヒーが当たり
前のように出てくるところなど、エンゲル係数が限りなく低そうで羨ましい。上京した亜紀は、光谷の妻や娘とともに(光谷と自分が父娘関係である事実を隠し
て)住むのだが、ある日突然、光谷の妻と一緒に銀座に買い物をすることになり、そこで豪華なパンプスとワンピースをプレゼントされたりもする。しかもこの
光谷家の夫婦、とにかく優しい。金持ちで性格も良いだなんて…。貧乏人な上に根性もねじ曲がった筆者は怒りと妬みとそねみでムカムカし通しだったのは言う
までもない。

そこでさっそうと登場するのが光谷家の一人娘にして亜紀の異母妹にあたる理江である。
理江は、亜紀と同じく歌手を
目指しているのだが、こいつがワガママし放題のバカ娘で筆者の不条理な溜飲を下げてくれる。作曲家の卵と遊び、当時はやりのジャズ喫茶で歌いまくり、皮
ジャンが欲しいと親父の職場に押しかけ金をねだる。もちろん、亜紀のことなど使用人ぐらいにしか思っておらず、こき使いまくるわけだ。これぞ金持ち。ク
イーン・オブ・ステレオタイプなのだ(?)。



仲宗根美樹のキャスティングとヒロインの不幸招き度に驚く

で、びっくりしたのが理江役の女性。ずいぶん色黒で眉が太く、目鼻立ちのハッキリした女優さんだなあと思っていたのだが、実は彼女こそ歌手の仲宗根
美樹なのである。設定では沖縄の血など一滴も入っていない本土人。一方、桑野みゆきは沖縄生まれの沖縄育ち…のはずが、これがスラリとした色白美人。一体
なぜこんな逆転キャスティングになってしまったのか、関係者の証言を聞きたいところだ。

けれど、ウチナーンチュの外見的特徴というところだけ目をつぶれば、この二人、意外と良い。薄幸そうな顔立ちの桑野みゆきと、それを(結果的にだが)いじめることになる快活そうな顔つきの仲宗根美樹。この対比がドラマを盛り上げてくれるのだから。

というわけで、ドラマは時間を追うごとにメロメロになっていくのだが、興味深いのは、やはり亜紀の“可哀想”ぶりであり、“健気”さである。理江に前述の
パンプスを譲るのはもちろん、母が遺した歌集を元に作った曲「川は流れる」までも譲り、さらには歌手デビューのチャンスまで譲ってしまうのである。しかも
「私がいては光谷家の幸福はない」と沖縄に帰ってしまうとは、「お前が不幸を招き寄せてるんだろう!」とツッコミの一つでも入れてやりたくなる。



貸し本少女漫画との類似点

結果的に彼女の決断がドラマを大団円に導くことになるのだが、この感じ、以前どこかで見た覚えが…と、脳みそをフル回転して思い出したところ、ありましたよ。十年ほど前、古本屋で購入した貸本の少女漫画のストーリーと酷似しているのだ。

筆者が購入したのは「こけし」という少女漫画で、三つの短編で構成されているのだが、そこに出てくるのはどれも“健気な少女”、“不幸な身の上”、“金持ち”、そして“健気”の要素がたっぷりと入っており、それが本作とそっくりなのだ。

本の悲しさか、「こけし」には奥付が一切無いため、いつ頃出版されたのか不明なのだが、作中のキャラクターのファッションや貸本の隆盛期などを勘案すると
1960年代初頭と推測できる。とすれば『川は流れる』の製作時期とおおよそ符合する。それにしても当時のお約束的な薄幸物ドラマと「沖縄」の相性が良い
とは意外な発見である。



沖縄映画としては×、メロドラマとしては○

ここで言っておきたいのだが、本作における沖縄の描き方はかなりテキトーである。
ウチナーンチュであるはずの亜紀の名前が沖縄の姓で
はありえない「水方」であったり、冒頭の観光案内で「とりあえず」南部戦跡や波の上神宮、守礼門を見せたり、クライマックスでなぜか亜紀が中城城跡で佇ん
でいたりと、「沖縄映画」としてのツッコミどころは素晴らしく満載だ。けれど、そんなおかしな沖縄映画は、本作以降も山のように作られてきたし、これから
も作られ続けるだろう。

だが、筆者としてはそんなことより、当時のメロドラマの末席に沖縄が登場し、また意外とマッチングしていた、という事実に妙な感慨を覚えてしまうのだ。
そしてなによりも、当時の本土の人々が沖縄をどのように捉えていたのかを、亜紀という薄幸のヒロインを通して見ることが出来たのが大きな収穫だったといえる。

○沖縄度☆☆

○メロドラマ度☆☆☆☆☆

○仲宗根美樹のキャスティングに驚いた度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


2 件のコメント:

  1. 水方とよんで うみんちゅ と読んだりして...。うそです
    でも驚きのある映画は好きです、基本的に。

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  2. ��gonpintakakoさま
    コメントありがとうございます。
    水方という姓についてですが、沖縄の姓名辞典でも調べましたが無かったですね。けれど沖縄は改姓の多い地域でもあるので、ひょっとすると…ということも考えられます。

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